研究者の紹介

髙橋 和生 准教授 / 電気電子工学系

研究の着眼点 プラズマ中の微粒子の振る舞いに興味

除去対象とみなされていたプラズマ中の微粒子

プラズマ処理を行う際、帯電したチリなどの微粒子が真空装置内で浮遊し集まることがあります。一般に、半導体製造プロセスにおける微粒子プラズマは、不純物、不要なものとして除去対象とされていました。しかし、その時々の条件に応じて規則的な振る舞いをする微粒子に、髙橋和生准教授は長年関心を抱いてきました。プラズマと微粒子の関係、それの有効活用が、髙橋准教授の研究テーマの大きな柱の一つとなってきました。

半導体製造プロセス以外に活路を見出すプラズマ技術

プラズマ技術の産業応用で筆頭にあがるのが、半導体製造プロセスです。実際に、多くの企業や大学の研究者が、加工の微細化、プロセスの省エネルギー化、使用原料の環境負荷の軽減化などの観点からプラズマ処理の研究開発を行ってきました。髙橋准教授が学生時代にプラズマの研究を開始した頃は、日本としても半導体が花形産業であったこともあり、研究テーマの設定には常にそれを意識せざるをえませんでした。しかし、2000年以降は半導体も産業として成熟期を迎え、別分野で新たなプラズマ活用ができないかという模索が、半導体業界全体でも行われています。その結果、プラズマ応用の裾野は急速に広がってきました。その理由の一つには、これまでプラズマの発生は真空装置内が前提となっていましたが、プラズマ発生距離や出力を抑えてはいるものの、大気雰囲気下でのプラズマ発生が可能となり始め、適用できる範囲が広がってきたということが挙げられます。

髙橋准教授は、大気圧プラズマを用いて、医療への応用を検討しています。例えば、生体・細胞表面で、電子・イオン発生、化学的活性種(ラジカル)、官能基付加などの化学反応を行うことで、細胞活性などの効果を確認しています(図1)。また、微小な水滴(ミスト)をプラズマで帯電させることで殺菌効果を確認しており、他の研究者と共同してハンドサニタイザーの提案なども行っています(図2)。

研究キーワードマップ

研究者紹介


髙橋 和生 准教授
電気電子工学系

図1 マウスのひらめ筋に大気圧プラズマを処理し、細胞活性化を行った実験 図2 プラズマ処理で帯電した水滴により殺菌するハンドサニタイザーの構想 図3 微小重力環境下実験を行った航空機の前での集合写真

ここが自慢!私の研究 宇宙・微小重力環境下における微粒子プラズマの計測実験

微粒子プラズマにとって微小重力環境は別世界

より基礎的の視点から微粒子プラズマを眺めた場合、帯電した微粒子は、ある種の原子やイオンのように振る舞い、集合して結晶のような挙動を見せることがあります。このことからクーロン結晶と呼ばれることもあります。しかし、原子からなる通常の結晶と決定的に違うのが、重力の影響です。地球上では、微粒子のサイズが10μmとなると、重力が支配的になり、帯電による面白い振る舞いが打ち消されてしまいます。

宇宙空間であれば、重力の影響をほとんど受けることなく、微粒子プラズマが持つ本来の魅力を追求することができます。そこで、髙橋准教授がマックス・プランク圏外物理研究所に留学していたときの研究者ネットワークを生かし、2009年からは、ドイツ・ロシアの研究グループと一緒に、宇宙ステーションで微粒子プラズマの研究を行っています(図4)。また、国内でも、宇宙航空研究開発機構(JAXA、当時はNASDA)の公募型研究で、無重力下での実験を行っています。急上昇・急降下する飛行機で20秒ほどの微小重力環境を再現することで、2007年、2010~2012年の間に120回を超える測定を行ってきました(図3)。

将来、人類が宇宙に生活圏を広げる際に、生命に必須な水や酸素は、月や火星の砂などからその成分を取り出す必要が出てくることとなるでしょう。また、月の表面には帯電したダストが浮遊していると考えられており、月での活動を考えた場合に、この適切な扱いが必要になると考えられます。その時に基盤技術として、微粒子プラズマが役立つと考えられます。

微粒子プラズマを定量的に計測する

微粒子プラズマは、ミリメートル~センチメートルといった比較的大きな範囲での現象であり、また微粒子そのものも目視できるサイズのものであることから、直観的にわかりやすい現象でありながら、その計測方法はこれまで限られていました。一般に、微粒子プラズマの計測には、レーザー掃引照射によって微粒子を光らせ、CCDで光学的に観測するという手法がとられています。その他にも、定量的な評価のために、イオン密度や電子温度といった物理量を取得できる二本のプローブを用いたダブルプローブ法などを開発しています。

図4 宇宙ステーションでの実験のやり取りの流れ 地上から装置の操作を記述したコマンドを、宇宙ステーションにメールで送付する。データを受け取った宇宙飛行士はUSBメモリにコマンドプログラムをコピーし、実験棟に設置してある装置にコマンドを入力する。実験結果の生データは、再びメールで地上に送られるほか、ビデオカメラを通じて地上と宇宙ステーションでリアルタイムなモニタリングが行われることもある。

研究よもやま話 苦労編

急加速・減速でハードディスクが故障?
航空機による微小重力環境実験では、航空機の空間的な制約から、地上のように大型のプラズマ装置を持ち込むことができません。また、航空機の急上昇・急降下という実験者への肉体的・精神的な負担の大きい環境下であるため、あらかじめ操作手順を簡単にした装置を準備しておく必要があります。その他にも、装置内にある基板が外れたり、加速度が刻々と変わる中、その影響と思われるハードディスク(HDD)の故障があり、SSDに置き換えたりするなど、手探りの中で実験系を構築する必要がありました。

微粒子プラズマ、クーロン結晶


平行平板高周波数プラズマ装置内の微粒子プラズマの例。2.6μmの微粒子が紫色に発光して中央に浮遊している

プラズマ中に注入された数マイクロメートル程度の微粒子が、プラズマ中の運動性の高い電子によって負に帯電し、クーロン力を介して微粒子同士が相互作用している状態のことを指します。微粒子のクーロン相互作用が熱運動や重力よりも十分に大きくなると、微粒子が結晶中の原子のように整然と配列することから、とくにクーロン結晶と呼んでいます。外部の電場などによりクーロン結晶は容易にその形態を変えることから、動的な観測では微粒子同士にはたらくイオン粘性力も重要な役割を果たします。 この研究を推し進めるために、微粒子プラズマ研究会が2001年に設立され、高橋准教授も早い段階から関わり、多くの発表を行っています。



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