京都工芸繊維大学の注目研究を毎月1つずつ紹介します。
  • 2024年3月

    体内で活躍する「超微細ロボット」の実現を目指して
    ~細胞の仕組みを利用した、目に見えないサイズのロボット~(後編)

    後編では、外岡先生が現在取り組んでいらっしゃる研究事例を紹介いただきながら、小さなロボットがもつ可能性について伺いたいと思います。

    外岡先生はコンピューターや通常のロボットと同じような機能を、目に見えないほどのサイズで次々と実現されていますが、今後も多くの機能開発を予定されています。 後編では、その研究の一部を紹介していただきました。

    小さなロボットに実装する様々な機能

    現在私の研究室では、細胞型微小ロボットに実装するための様々な機能の開発に取り組んでいます。 そこで、現在取り組んでいるものの中から一部を紹介したいと思います。

    ■タンパク質の合成機能:ロボットに意図したタンパク質を作らせる

    1つ目は、タンパク質を合成する(作る)機能です。

    たとえば体内に常駐しているロボットが、体の一部の異変に気付いたとします。

    タンパク質を作る機能があれば、その異変に対応するための薬のようなものを、その場で生成し、すぐに対処することができるようになります。

    このタンパク質を合成する(作る)機能も、もちろん細胞を参考に開発しています。

    人の細胞の中にはDNA情報をもとにタンパク質を合成する機能が備わっていますが、これと同じような機能を人工的に作ったものが「無細胞タンパク質発現系」と呼ばれる溶液(液体)です。

    この溶液は、細胞の中でなくても機能する特徴があり、細胞以外の環境、つまりロボットにも使うことが可能となります。この働きを利用し、ロボットにタンパク質を作り出す機能を持たせることができます。

    こちらの写真をご覧ください。

    先ほどの溶液を入れた小さな人工カプセルを顕微鏡で覗いている様子です。薄い白い斑点のようなものが人工カプセルです。

    この小さな人工カプセルの中に、「光るタンパク質を作るDNA」を入れて様子を観察してみます。

    もし、この溶液がDNAの情報を読み取り、タンパク質の合成に成功すれば、タンパク質が蛍光を発することになります。

    こちらが15分後です。

    いかがでしょうか。所々光っている箇所を見つけることができます。つまりタンパク質の合成に成功しているということです。

    ちなみに、この人工カプセルは、細胞膜と同じ構造を持つ脂質二重膜からできていて、実際の細胞と同じような環境を人工的に作り出しています。 サイズとしては10マイクロメートルですので、この小さなサイズの中にタンパク質を合成する機能が内蔵されているということになります。

    分解機能にも着目し、実際の細胞動作を再現

    この手の研究は、どうしてもタンパク質の「合成」ばかりに注目が集まりますが、実際に細胞の働きを観察してみると、タンパク質の合成だけでなく、「分解機能」にも注目する必要があることがわかります。

    実際の細胞ではタンパク質の合成と合わせて分解も行われているからです。

    当然ですが、増えすぎたタンパク質は分解されて消滅しなければ、体内にあるタンパク質は増え続け、うまく機能しなくなります。 そこで我々の研究室では、実際の細胞と同じように機能させることを想定し、タンパク質の分解機能までを含めて研究をしています。

    ■時間機能:分子で時間を制御するシステムを作る

    2つ目は時間機能です。

    あらゆる家電製品には水晶振動子という部品が組み込まれていて、この水晶振動子があることによって時間的な機能を持たせることができています。

    たとえばスマートフォンにも水晶振動子が入っていますが、そのおかげで時計やタイマー、アラームなどの機能を使うことができています。電子レンジでタイマーを使って食べ物を温めたりしますが、これも水晶振動子があるからカウントできています。

    この水晶振動子は電圧をかけることで一定周期の振動が生まれ、その振動によって時間的な制御ができる仕組みになっていますが、サイズが大きすぎるため、そのまま細胞型微小ロボットに使うことはできません。

    そこで考えたのが、水晶振動子のように振動する振動子を分子で作る方法です。

    分子は細胞よりも小さいので、分子で振動子を作ることができれば、それを細胞型微小ロボットの中に組み込むことができると考えました。

    以下のグラフをご覧ください。

    分子で作った振動子が実際に機能するかどうかを実験したグラフです。 先ほどタンパク質の合成についてお話しましたが、タンパク質を作る量を時間の経過によって制御できるかどうかという実験です。

    出典:Tonooka et al., Artificial Cell on a Chip Integrated with Protein Degradation, Proceedings of the IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems, 2019より一部改変

    横軸が時間で縦軸が作られたタンパク質の量を表しています。時間の経過とともにタンパク質の合成量が上下に変化しているのがわかります。

    つまり、DNAやタンパク質などの分子を用いて振動を作り出すことに成功したということです。 この機能を作るのに相当な苦労がありましたが、今後はさらに、持続性や周期、上下する振り幅の制御など様々な機能を強化していく予定です。

    ■連携機能:ロボット同士がサッカーチームのように連携しながら集団行動をとる

    ここまではロボット単体の機能について見てきましたが、ここからさらに発展して、ロボット同士が連携する機能も開発しています。

    ロボットが別のロボットへ信号を送ったり、信号をキャッチしたりしながら、それぞれが自分の判断で動くということです。

    サッカーチームのようなイメージをしてもらうとわかりやすいかもしれません。 それぞれの選手の動きやボールの位置を見ながら、それぞれの選手がチームのために動いていく、それと同じような機能をロボットにも付加しようという試みです。

    これが完成すれば、それぞれ違う機能を持った、数台の細胞型微小ロボットが体内で、それぞれ連携をしながら、検査や治療を行うことにより、できることが格段に増えます。

    また、サプリメントのような感覚で、人に合わせて体内に常駐させるロボットの種類を変えたりしながら、より効果的な治療などが可能になると考えています。

    今できている連携機能としては、その場にいるロボットの集団密度を、それぞれのロボットが把握できる機能です。 それにより、ロボットが一箇所に集まり高密度になれば、それぞれのロボットがタンパク質を合成し、反対に密度が下がれば、タンパク質の合成をストップするような集団行動の設計に成功しています。今後は、何か目的を達成するために、ロボット間で命令を伝達する機能などを開発していく予定です。

    細胞型微小ロボットを誰もが作れる世の中に

    以上が、現在取り組んでいる研究の一例になりますが、そのほかにロボットが状況に応じて内包物を放出する機能や、血液などの流れに乗っているロボットを外部から遠隔で制御する方法も研究しています。

    そうやって様々な機能を開発していきながら、いずれは「細胞型微小ロボットの標準化」を目指したいと考えています。

    たとえば、パソコンを自分で作りたいと考えた場合、組み立てる部品を一から作るのではなく、すでに市場に出回っている標準化されたパーツを集めて作ります。

    パーツが標準化されているおかげで、特にそれぞれのパーツの専門家でなくても、ある程度理解があれば誰でも作れます。

    これと同じことを細胞型微小ロボットでも実現できないかということです。

    たとえばお医者さんが患者さんのために小さなロボットを作るときに、当研究室が作った要素技術の一覧があり、その要素技術を必要に応じて組み合わせながら、簡単にその患者さんにあったロボットをオーダーメイドできるようなイメージです。

    このように、様々な機能を開発し、それらが標準化されれば、その組み合わせ方や使い方によって、このロボットの可能性は無限大に広がっていくでしょう。

    失敗してもいい、やれることはまだまだたくさんある

    このように将来は医療の分野で活躍できる小さなロボットを作りたいと考えていますが、この研究のもともとのはじまりは、小学生の頃に遡ります。

    小学校の授業で登場したマイクロロボットです。教科書の中ではキャラクターとして登場しましたが、こんな小さなロボットをいつか作れたらいいなぁ、と子供ながらにワクワクしました。

    目に見えないロボットが自分の設計した通りに動くって、とても面白いと思いませんか。

    この頃に感じた好奇心が今でも原動力になっていますね。

    もちろん、全ての研究が思い通りに進んでいくことはありませんが、実験のたびに「こんな方法はどうか」「あれを使ってみたらどうか」という風に、その分だけ発見があり、このプロセス自体がとても面白いです。

    そうやって試行錯誤を繰り返すなかで、だんだんと核心に近づいていきます。

    そして、ある日突然うまくいくのです。

    たとえば、先ほど紹介した時間的な機能を持たせる研究がそうでした。

    色々と実験を繰り返すなかで「どうやら、タンパク質の合成と分解のバランスが鍵だな」ということに気づき、だんだん核心に迫っていき、ある日突然、振動させることに成功しました。

    振動した瞬間は本当に嬉しかったのを覚えています。

    できるだろうという希望は持っていますが、それでもできないのが当たり前。

    でもそれでいいんです。できること、やれることはまだまだあるわけですから。

    そもそも、1回目でうまくいくということは、裏を返せば誰でもできるということであり、そこにやりがいや面白みはないでしょう。それだけ未知のものにチャレンジしているということです。

    私のように「こんなものを作ってみたい」という風な好奇心がある人にとって、この研究はとてもやりがいのあるものだと思います。

    実際、そのような学生さんたちと一緒に、新しい分野を開拓するチャレンジングな研究に取り組んでいます。

    自分で設計したものが動き出す。それが人の役に立つかもしれない。そんなことを想像しながら、これからも取り組んでいきたいと思います。

    研究者プロフィール

    外岡大志 准教授

    とのおか たいし

    主な発表論文・関連特許

    Microplastic particle trapping through microfluidic devices with different shaped pillars

    著者名 :Atsuhide Kitagawa; Mirano Ota; Tomoaki Watamura; Taishi Tonooka; Yuichi Murai
    掲載誌名 : Chemical Engineering Science
    出版年月 : 2022年12月

    Rapid, affordable, and uncomplicated production of bacterial cell-free lysate

    著者名 : Robert M. Cooper; Taishi Tonooka; Andriy Didovyk; Jeff Hasty
    掲載誌名 : Journal of Visualized Experiments
    出版年月 : 2021年10月

    Lipid bilayer on a microdroplet integrated with a patterned Ag/AgCl microelectrode for voltage-clamp fluorometry of membrane transport

    著者名 : Taishi Tonooka; Toshihisa Osaki; Koji Sato; Ryuji Kawano; Shoji Takeuchi
    掲載誌名 : Sensors and Actuators, B: Chemical
    出版年月 : 2021年05月

    Microfluidic device with an integrated freeze-dried cell-free protein synthesis system for small-volume biosensing

    著者名 : Taishi Tonooka
    掲載誌名 : Micromachines
    出版年月 : 2021年01月

    Construction of an artificial cell capable of protein expression at low temperatures using a cell extract derived from Pseudomonas fluorescens

    著者名 : Mana Fukumoto; Taishi Tonooka
    掲載誌名 : Processes
    出版年月 : 2021年01月