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2026年10月
酸素を操る粉末
〜環境・エネルギー問題の解決を目指して〜(前編)今回お話いただくのは、材料化学を専門とする細川 三郎 教授です。
細川先生は、自動車などからの排気ガスを浄化する触媒について研究されています。
触媒に対する考え方を根本から捉え直し、驚くべきアプローチで排気ガスの浄化技術を確立されようとしています。
この技術が実用化されれば、世界が抱える環境問題を解決する糸口となるはずです。
キーワードは「呼吸をするように、酸素を出し入れする粉末」です。
高価な貴金属だけに依存しない「多馬力」の発想
私は、主に環境保全に役立つ材料について研究をしています。 今回は、その中でもメインテーマである「自動車の触媒」についてお話しできればと思います。

触媒といってもなかなかイメージがつきにくいと思いますが、私が研究しているのはこのような粉末の材料です。

このような粉末は「金属酸化物」と呼ばれる触媒で、排気ガスを浄化するために自動車で使われています。
先ほどの触媒は私が研究開発を進めているものですが、この触媒の一番面白い点は、なんといっても「まるで呼吸をしているかのように酸素を取り込んだり、放出したりする」ところです。
詳細は後ほどお話しますが、この特性を利用することで、これまでとは違ったアプローチで排気ガスを浄化できるのではないかと考えています。
少ない貴金属で、より大きな浄化性能を
自動車の排気ガスには、一酸化炭素(CO)や、窒素酸化物(NOx)など、健康被害や環境汚染につながる物質がたくさん含まれています。
そこで、自動車にはこれらを浄化するうえで、非常に有効な高価な貴金属(Pd, Rh, Pt)がふんだんに使われています。この貴金属が浄化を促すことで、安全な物質として大気に放出されています。
しかし、これら貴金属の埋蔵量は少なく、価格変動も非常に大きい材料です。
実際、世界で採掘される貴金属の量に対して、自動車の触媒として必要とされている割合は非常に多い状況です。
さらに、日本においては資源が乏しいことも考えると、貴金属だけに頼るわけにはいきません。
だからこそ、
「使用する貴金属を減らしながら、さらに大きな浄化作用を生むにはどうすればいいか?」
ということは、日本の大きな課題であり、私自身の主要な研究テーマでもありました。
そして、その糸口になるのが、先ほどお見せした金属酸化物という触媒にあると考えています。
そうはいっても貴金属が重要な役割を担ってきた分、それに代わる材料を見つけるのは簡単ではありません。
そこで、私が目をつけたのが「貴金属そのもの」ではなく、貴金属を支えている「土台」でした。
自動車の浄化装置の中には、蜂の巣のように無数の穴があいた部品があり、その表面に土台に貴金属を担持した粉末(固体触媒)が固定されています。

自動車の浄化装置
そこで、私はこの粉状の材料に着目しました。
具体的には、
「貴金属だけでなく、この土台にも浄化の仕事を手伝ってもらえないだろうか」と考えました。これまでの浄化プロセスでは、最初から最後までほとんどの仕事を貴金属が担っていましたが、
「貴金属だけに任せるのではなく、土台となっている酸化物にも一緒に働いてもらう」という発想です。材料を変えると、仕組みが変わる
一般的に、一酸化炭素(CO)を浄化する場合、使用される貴金属はパラジウムという高価な金属になります。
そして、パラジウムを支える土台にはアルミナという酸化物が使われています。
これが一般的な形です。
ここを排気ガスが通ると、ーーーー
①パラジウムが、排気ガスの中からCOを引き寄せようとします。
②同時に浄化に必要な「酸素」も引き寄せようとします。
その結果、COと酸素がパラジウムの表面に吸着します。
③表面でCOと酸素が反応を起こし、CO₂となって浄化されていきます。
ーーーー

つまり、①〜③までの浄化プロセスを貴金属が担っていることになり、その負担はとても大きなものでした。
ところが、パラジウムを支えている「アルミナ」を「セリア」という金属酸化物に置き換えてあげると、様子は大きく変わります。

先ほどの②のプロセスをセリアが担ってくれるようになり、プロセスが以下のように変わります。
ーーーー
①パラジウムが、排気ガスの中からCOを引き寄せようとします。
②セリアの酸素をCOに供給します。
③その結果、パラジウムとセリアの界面でCOと酸素が反応を起こし、CO₂となって浄化されていきます。
ーーーー

なんと、セリアの中に含まれている酸素が、浄化反応に使われるようになるのです。
これにより、パラジウムは「酸素を引き寄せる」という作業から解放され、負担が減ります。
結果として、パラジウムの負担が減る分、使用するパラジウムの量を減らすことに繋がっていくと考えられます。触媒の捉え方を変える
このように、土台として使っていた酸化物を「貴金属と一緒に働く材料」と捉え直すことで、様々な可能性が見えてきます。
このような考え方で、COより浄化が難しいNOxの浄化についても大きな成果が出ています。
下記のグラフを見てください。
これは、土台となる酸化物を工夫することで、パラジウムの使用量を従来の10分の1にしても、同程度の浄化性能を発揮できることを示しています。
さらに、COにおいては、貴金属を使わなくても浄化できる可能性まで見えてきました。
新しく作った材料は、単に貴金属を節約できたということを超えて、大きな価値をもたらしてくれると考えています。
後編では、冒頭でお伝えした「酸素を出し入れする粉末」の正体について、さらに迫っていきたいと思います。
研究者プロフィール


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研究者紹介ハンドブック
主な発表論文・関連特許
Design of Pd–Metal Oxide Heterojunction Interfaces through Mg–Al–Mn-Based Spinel Oxides for Efficient NO Reduction
著者名:Reito Kobayashi, Shugoro Tsutsumi, Toyokazu Tanabe, Kenji Wada, Saburo Hosokawa
掲載誌名: ACS Applied Materials & Interfaces 18(14) 20524-20532
出版年月日:2026年4月6日
Epitaxial domain of Pd oxide with a superperiodic structure formed on Sr3Ti2O7: a promising environmental catalyst for exhaust gas purification
著者名:Saburo Hosokawa, Wataru Ota, Toyokazu Tanabe, Kosei Shingai, Chikara Watanabe, Hiroyuki Asakura, Shunya Onishi, Laetitia-Eiko Xerri, Hiroshi Yoshida, Masato Machida, Kentaro Teramura, Tohru Sato, Tsunehiro Tanaka
掲載誌名:Journal of Materials Chemistry A 13(34) 28574-28582
出版年月:2025年8月Emergence of Dynamically‐Disordered Phases During Fast Oxygen Deintercalation Reaction of Layered Perovskite
著者名:Takafumi Yamamoto, Shogo Kawaguchi, Taiki Kosuge, Akira Sugai, Naoki Tsunoda, Yu Kumagai, Kosuke Beppu, Takuya Ohmi, Teppei Nagase, Kotaro Higashi, Kazuo Kato, Kiyofumi Nitta, Tomoya Uruga, Seiji Yamazoe, Fumiyasu Oba, Tsunehiro Tanaka, Masaki Azuma, Saburo Hosokawa
掲載誌名:Advanced Science 10(19)2301876
出版年月日:2023年4月25日Excellent Catalytic Activity of a Pd-Promoted MnOx Catalyst for Purifying Automotive Exhaust Gases
著者名:Saburo Hosokawa, Takuya Shibano, Hiroaki Koga, Masafuyu Matsui, Hiroyuki Asakura, Kentaro Teramura, Mitsutaka Okumura, Tsunehiro Tanaka
掲載誌名:ChemCatChem 12(17) 4276-4280
出版年月日:2020年5月24日Efficient oxygen storage property of Sr-Fe mixed oxide as automotive catalyst support
著者名:Kosuke Beppu, Saburo Hosokawa, Hiroyuki Asakura, Kentaro Teramura, Tsunehiro Tanaka
掲載誌名:Journal of Materials Chemistry A 7(3) 1013-1021
出版年月日:2018年11月8日
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