
2025年12月
タイムラグのない世界を実現する「半導体三次元ナノ構造」
〜光を閉じ込め自在に操る、世界で唯一の技術〜(前編)
今回お話を伺うのは、電気電子工学系の髙橋 駿 准教授です。
髙橋先生は「光」に関するあらゆる研究をされていますが、その中でも「光の回路」に関する技術についてお話いただきます。
現在、私たちが使っているあらゆるデジタル機器は電気で動いていますが、この電気を「光」に置き換えることで、あらゆるブレークスルーが起こるのではないかとおっしゃっています。
「光」が持つ可能性やそれを制御する技術について伺いながら、研究者としての大切な考え方をお話いただきました。
① 電気回路の限界を突破。光が持つ桁違いのスペック
私の研究室では、半導体ナノフォトニクスをテーマに研究を進めています。
今回は、その中でも「光電融合」に関する技術について紹介したいと思います。
現在、スマートフォンをはじめ、あらゆるデジタル機器は電気によって動いており、半導体の電気回路を使って情報の処理や通信を行なっています。
そして、この電気を「光」に置き換えようとする技術が「光電融合」です。

生成AIなどテクノロジーの発展とともに私たちの扱うデータは日々膨大に増え続けています。
そんな現代においては、より高速な処理や通信が求められるようになってきましたが、電気の回路だけでは限界が見えてきました。
実際、スマートフォンやPCの動作が重たくなったり、何度もエラーが出てしまうなど、このような経験をされた方も多いのではないでしょうか。
そこで注目を集めているのが光です。
光はデバイスの性能を飛躍的に高めることができるため、世界的にも研究が盛んに行われています。
最近では「光電融合」という言葉をニュースなどで頻繁に耳にするようになり、一般的にもかなり浸透してきた印象があります。
大阪万博で体感した光の可能性
光電融合の可能性をわかりやすく示した一つが、大阪・関西万博で行われた「1万人の第九」でした。
万博会場いっぱいに集まった1万人の合唱団が、ベートーヴェンの交響曲第9番を一斉に歌い上げるというものです。
通常であれば、1万人が同じタイミングで歌うことは到底不可能です。
指揮者の動きやオーケストラの演奏が遠くまで伝わる間にタイムラグが生じ、近くにいる人と遠くにいる人とでは遅延が出てしまうからです。
しかし、光を用いた通信技術によって、会場の隅々まで指揮者の動きと演奏がリアルタイムに届けられ、その結果、1万人全員が一瞬のずれもなく声を合わせることができました。
その圧巻のパフォーマンスに、私自身、未来を体感するような大きな感動を覚えました。
光を取り入れることで、電子では突破できなかった壁を越えることができるということです。
② 世界で唯一の技術『三次元フォトニック結晶』
電気の回路は、低コストや小型化という面においては非常に優れていますが、一方で大きな課題があります。

それは情報処理や通信速度が光と比べて劣る点に加えて、熱の発生が挙げられます。
電気を流す以上、デバイスには必ず熱が生じ、熱が半導体のパフォーマンスを著しく落としてしまうことが多々あります。また近年は熱による発火など深刻なトラブルまで起きるようになりました。
これに比べて「光」は、熱を発することなく、膨大な情報を一瞬で処理し、タイムラグのない通信を可能にし、これまで課題とされていたあらゆることを解決することができます。
しかしながら、もちろん「光の回路」にも課題があります。
①電気と違い、光は止まることなく秒速30万kmで進み続ける点、
②光の波は電気に比べてサイズが大きいため小型化が難しいこと、
③意図した方向に自由に動かせない点です。
電気は、スイッチのようにオンとオフを切り替えることで、必要に応じて止めたり流したりできますが、光は止まることなく常に進み続けます。ゆえに制御や蓄積が難しく、また大きなスペースが必要となるため、小型化が難しいとされています。
あらゆるものが小型化していく現代において、一直線に動き続ける光を、いかにコントロールしコンパクトにするか、これが大きな課題と言えるでしょう。
光をコントロールする三次元構造の結晶
私が取り組んでいる「三次元フォトニック結晶」という技術は、これらの課題を解決する糸口になるのではないかと考えています。
これが実際に作った「三次元フォトニック結晶」です。

数センチ程度のサイズに見えるかもしれませんが、実は髪の毛の太さの100分の1程度の極小な周期で作られた超精密な構造となっています。
この小さな装置の中に光を閉じ込め、自在にコントロールすることが可能となる技術です。
最も特徴的な点は、上に向かって三次元で積み重なっている点です。
世界的に見ても、この研究室でしか作れない半導体加工によるユニークな形状となっています。
現在、光だけではなく電気を含めた回路は、平面(二次元)に並べられていることが一般的です。
しかし、平面の構造では、閉じ込められる光の量が少なく、そして逃げやすいという課題があります。
そこで、上方向にもスペースを拡大することで、閉じ込められる光の量を増やし、さらには光が逃げにくい構造としています。
また、光を前後左右だけではなく、上下などさまざまな方向に誘導できるようにもなりました。
その結果、小さいサイズながらも光がもつパフォーマンスを最大限発揮させることが可能となります。
想像を超えた未来がやってくる
この技術は非常に小型であるがゆえに、将来的には、スマートフォンやPCなど、コンパクトさが求められるデバイスに組み込まれることを想定しています。
実用化されれば、負荷が大きい作業が一瞬で完了することはもちろん、タイムラグのない国際間でのWEB会議、三次元での動画配信など、今では考えられないようなことが可能になります。
さらに数十年先には、想像を超えたまさにドラえもんの世界がやってくるかも知れません。物理的に人がそのまま移動してしまう「どこでもドア」など、常識を疑ってしまうような未来です。
③ 外の世界を知ることで、研究者としての視点が養われる
このようにお伝えすると、反射的に「そんなことはありえない」そう感じてしまう方も多いと思います。
しかし、本当にそう言い切れるでしょうか。
そもそも、常識とはこの十数年で確立されたものが多く、その前は違う常識が一般的でした。そう考えると、数十年後の未来も今とは違う常識となっているはずです。
研究の世界でいうと、10年後は今の物理法則で予測できますが、さらに数十年後は新たな物理法則が発見される可能性もあるわけですから、予測を立てることは非常に難しいといえます。
このように考えると、教科書に載っている法則や式についても、そのまま暗記するのではなく「本当にそうなんだろうか」と一度疑ってみることは非常に大切なことだと考えています。

別の視点で考えてみると、全く違う解釈が見えてきたり、新しい発見につながっていくことはしばしばあります。
常識を疑うための下地づくり
そのためにも、日頃から研究している分野だけではなく、世界にある様々なものに触れ、経験しておく必要があると学生にはよく話しています。
「違う分野にいる友達の話を聞いてみる」「海外に行ってみる」「アルバイトをしてみる」など、何でも構いません。
そこで新しく触れた考えや知識が、研究や学業と結びつく時がやってきて「これって本当にそうなんだろうか?」と別の視点から見られるようになるからです。
こうして、研究者としての視点を養っていくことで、いつしか自分の想像を超えた発見にたどり着くことができるように思います。
研究者プロフィール


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研究者紹介ハンドブック
主な発表論文・関連特許
Circularly polarized cavity mode emission from quantum dots in a semiconductor three-dimensional chiral photonic crystal
著者名:S. Takahashi, Y. Kinuta, S. Ito, H. Onishi, K. Yamashita, J. Tatebayashi, S. Iwamoto, Y. Arakawa
掲載誌名:Applied Physics Letters 126(8)
出版年月:2025年2月24日
Wilson loop and topological properties in a three-dimensional woodpile photonic crystal
著者名:Huyen Thanh Phan, Shun Takahashi, Satoshi Iwamoto, Katsunori Wakabayashi
掲載誌名:Physical Review B 110(23)
出版年月:2024年12月27日
Microwave hinge states in a simple cubic lattice photonic crystal insulator
著者名:Shun Takahashi, Yuya Ashida, Huyen Thanh Phan, Kenichi Yamashita, Tetsuya Ueda, Katsunori Wakabayashi, Satoshi Iwamoto
掲載誌名:Physical Review B 109(12)
出版年月:2024年3月12日
Microstructured Organic Cavities with High‐Reflective Flat Reflectors Fabricated by Using a Nanoimprint‐Bonding Process
著者名:Takuya Enna, Yuji Adachi, Tsukasa Hirao, Shun Takahashi, Yohei Yamamoto, Kenichi Yamashita
掲載誌名:Advanced Optical Materials 12(15) 2302956-2302956
出版年月:2024年2月9日
Polarization superposition of room-temperature polariton condensation
著者名:Yuta Moriyama, Takaya Inukai, Tsukasa Hirao, Yusuke Ueda, Shun Takahashi, Kenichi Yamashita
掲載誌名:Communications Materials 4(1)
出版年月:2023年12月20日
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