研究者の紹介

麻生 祐司 准教授 / 繊維学系

研究の着眼点微生物が作るプラスチック原料

図1 微生物で合成されるイタコン酸とその産業応用 イタコン酸は、微生物の解糖を含む生化学反応の過程で効率的に合成される。合成されたイタコン酸は、2つのカルボキシ基や炭素二重結合を持つため反応性に富み、合成繊維や塗料、ゴム、接着剤などと様々な工業製品に形を変える。他にも創薬の出発物質になるような環状分子の前駆体ともなり、ファインケミカルの分野でも注目されている。

微生物という「工場」

プラスチックやビニールなどの石油化学製品は、蒸留塔やガスタンクが立ち並ぶコンビナートで、大量のエネルギーを消費しながら集中的に製造されています。これにより、大量かつ安価、安定して製品を供給することが可能となります。一方、微生物による有用物質の生産は代謝プロセスの一環として行われ、温和な条件、低エネルギー、環境負荷を抑えたかたちで行われます。微生物による有用物質生産の最たる例が、日本酒やワインなどのアルコール発酵ですが、工業的にも有用な原料である「イタコン酸」を微生物で生産できることも知られており、実際に産業レベルで毎年何万Kトン単位の生産が行われています。麻生祐司准教授は、微生物による有用物質の生産というのを研究の大きな柱に捉えています。

カーボンニュートラルに至る幾つかの道

製品の製造から廃棄までの一連の過程で、CO2の排出がトータルでゼロになるようにする概念をカーボンニュートラルとよび、持続可能な社会の実現のために必要な物と考えられています。多くの研究者が多様なアプローチでこれの実現を目指しています。例えば植物起源の素材から合成されるポリ乳酸などがあり、廃棄の際も生分解性からエネルギー消費が抑えられると考えられています。 一方、麻生准教授は、イタコン酸の場合でもそうですが、特に微生物の代謝活動でCO2を吸収して有用な物質を合成していることから、廃棄でエネルギーを消費しても、全体としてカーボンニュートラルを実現できる可能性があります。

研究キーワードマップ

研究者紹介


麻生 祐司 准教授
繊維学系

ここが自慢!私の研究 いかに微生物に効率よくモノをつくらせるか

遺伝子改変したシアノバクテリアでイタコン酸を合成

産業化という視点からすると、結局のところ、微生物による物質生産も石油化学的なプロセスと比べて、トータルコストがどうなるかの一点に尽きます。そのため、微生物に効率よく生産してもらうかが研究として重要となってきます。 主には図2のようなアプローチが重要となってきます。 麻生准教授は、カーボンニュートラルのコンセプトに注目し、池などの水中で生息し光合成を行うシアノバクテリアをターゲットにしました。シアノバクテリアにイタコン酸合成の遺伝子を導入しシアノバクテリアでのイタコン酸合成を実現しました。

ファインケミカルへの道

一般に、石油化学製品の代替えを微生物生産によって行うことはコスト面でハードルが高いものとなります。イタコン酸のような酸素原子を多く含む分子は、石油化学製品の合成プロセスでは製造しにくいこともあり、微生物による工業的生産の数少ない実用化例となっています。麻生准教授は、微生物生産の一つの活路としては、希少価値の高い創薬などの分野にあると考えています。とくに微生物生産で得られる分子から抗菌活性、抗腫瘍活性、酵素阻害活性などの機能が得られることが少なくなく、創薬に限らず、生物学的にも非常に興味深いものとなっています。

図2 微生物の生産効率化のアプローチ

研究よもやま話 考え方の違い編

農学と化学の視点
この分野には農学寄り、化学寄り、さらには情報寄りの研究者が共同して研究を行い、それぞれの専門性や持ち前の技術を生かして成果に結びつけています。麻生准教授は、微生物研究をメインに、ポリ乳酸などの高分子合成のバックグラウンドもあり、農学・化学の両面からこの分野に臨んできました。面白いのは、同じ生成分子でも、農学寄りの研究者は機能面や産業需要といった川下から分子を眺めるのに対し、化学寄りの研究者は新しい合成方法、新規な分子骨格といった川上から分子を眺めるという違いがある点です。 麻生准教授は、この二つの視点をうまく融合させることで、ビニルモノマーを微生物に合成させ、一連のポリビニル合成に結びつけていく新しい研究テーマを設定し、「バイオビニルイノベーション」という考え方を提案しています。

合成生物(synthetic biology)を用いた微生物生産

従来の微生物生産は、考え抜いた仮説をもとにターゲットとなる微生物や導入遺伝子を決め、トライアル&エラーを繰り返していく、いわば息の長い研究となります。これに対して、近年急速に進んだ、遺伝子工学・半導体技術を用いて、siRNAによる遺伝子発現のオンオフ、光リソグラフィーによるオリゴヌクレオチド導入や、インクジェットによる少量多品種なDNAチップで、安価・高速・大規模に遺伝子発現系をトライアルすることが可能になり、微生物の遺伝子発現の実験が圧倒的に効率的になりました。あたかも、コンピュータプログラミングでコードを書き直すかのように、微生物の代謝経路を書き換えて物質生産を行うことが可能なことから「合成生物(synthetic biology)」と呼ばれています。



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