研究者の紹介

髙﨑 緑 准教授 / 材料化学系

研究の着眼点 ナノスケール化に向かう紡糸技術

図1 レーザーエレクトロスピニングの構成

ナノファイバーによる付加価値化の流れ

繊維業界を支えてきた紡糸技術にもナノスケール化の波が押し寄せています。同じ素材の繊維でも、直径が1マイクロメートルを切るナノファイバーにすることで、付加価値の高い応用分野がひらけてきます。例えば、電極材料、二次電池のセパレータ、ガス吸着材料、高機能フィルタ、センサ材料、DNAチップや再生医療の足場材料など、従来の繊維分野だけではくくれない応用が広がっています(図2)。 ナノファイバー化することで、比表面積の増加や分子配向の向上、透明性の向上などがあり、ミリ〜マイクロスケールの繊維ではなかった物性や機能が現れます。

図2 ナノファイバーで広がる高付加価値な応用例

目的や用途に合わせた紡糸技術

工業生産を意識した場合、ナノファイバーは物性・機能だけでなく、高速・大面積・低コストで製造することも重要となりますが、この点では紡糸技術には多くの蓄積があります。紡糸技術をファイバーの直径、直径の均一性、製造コストで分類した場合、図3のようになります。

髙﨑緑准教授らは、これまでにエレクトロスピニングとレーザー加熱を組み合わせたレーザーエレクトロスピングを考案しています。

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研究者紹介


髙﨑 緑 准教授
材料化学系

ここが自慢!私の研究 レーザー加熱で溶媒を用いないエレクトロスピニング

溶媒フリーなエレクトロスピニング

溶媒フリーなエレクトロスピニング 従来のエレクトロスピニングは、ナイロンやPETなどの高分子をギ酸やジクロロメタンなどの有機溶媒に溶かし、タンクからノズルに押し出して静電力でジェット噴射しています。このジェット中に溶媒は揮発し、コレクタに到達するまでに1マイクロメートルから数百ナノメートルのファイバーになります。コレクタ側で、平板を用いるとウェブ状の繊維(不織布)になり、ローラーなどで巻きつけるとフィラメント状になります。

これらの繊維材料を医療分野で使用する場合の懸念として溶媒の残留があります。そこで髙﨑准教授らが考案したのが、高分子を有機溶媒に溶かして流動性を得るのではなく、炭酸レーザーなどの高出力レーザーでノズル付近の高分子を加熱して溶融させ流動性を得るという方法です。レーザー照射部は非常に高温になりますが、局所的で瞬間的であることから、高分子の熱分解を抑えた形で紡糸可能です(図1)。

レーザーエレクトロスピングのメリット

図3 代表的な紡糸技術とファイバー直径・製造コストでの分類 ①紡糸口金から繊維を紡出する直接紡糸、②熱可塑性高分子を加熱溶融させて吐出するスパンボンド、③スパンボンドに加え高温ブローより細くするメルトブローン、④そして有機溶剤への溶解性の異なる高分子素材を海島状に紡糸し、後で芯を分離する複合紡糸、⑤高電圧印加したノズルから有機溶媒に溶かしたエレクトロスピニング、⑥化学合成やボトムアップなアプローチで、単一分子鎖などを生成する手法などがあります。 現在は、より細く均一なナノファイバーを創製するために、レーザーエレクトロスピニングに、メルトブローン法などの従来技術を融合したナノファイバー製造プロセスを開発中です。

研究よもやま話 研究室の日常編

デジタルネイティブ世代が研究室に
髙﨑准教授らの研究室では紡糸のプロセス技術開発を行っているため、装置を分解して部品を交換することが頻繁にあります。しかし、最近配属されてくる学生は、物心ついた頃からパソコンや携帯電話・スマートフォンに触れてきた、いわゆる「デジタルネイティブ世代」が主流。例えば、ネジしめやロータリーノブでの温度調整など、いわゆるアナログな操作には不慣れです。アナログ的な操作にもメリットがあるため、髙﨑准教授らの研究室では、なるべく装置制御にはデジタルボタンではなくアナログ的なものを使用するようにしています。ただし逆にデジタルネイティブな学生に教員が教えられることもあり、研究室では互いに切磋琢磨の日々だとか。

ナノファイバー不織布

不織布は繊維を織り込まずに組み合わせたシート状のもので、繊維方向がランダムなので、どの方向からでも機械的な強度が均一です。ナノファイバーも電池材料やガスフィルターとして使用する場合は、不織布の形態として扱うことが一般的です。製造時のパラメータ調整で厚みや空隙を簡単に調整できることも、機能材料としての幅を広げています。なお、マイクロスケールの不織布は一般的に繊維が乱反射して白色になりますが、100ナノメートルより小さなナノファイバーになってくると光の波長よりも十分に短くなり、透明なシートになってきます。不織布の代表的な応用として高機能マスクがありますが、ナノファイバ―不織布が量産化されれば、透明なマスクというものも実現するかもしれません。

研究者の紹介「髙﨑 緑 准教授 . pdf」(印刷用)



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