▼詳細
■研究の概要
■背景
・高分子材料は光・熱・機械的疲労によって容易に劣化するため(図1)、安定性向上の為には劣化反応経路の解明が不可欠です。
・劣化反応の中間体である短寿命ラジカル種を調べる手法としては、『スピントラップ法』が有用と考えられます(図2)。
・しかし、高分子材料などの固体系の試料でスピントラップ法を用いた研究例は、ほとんど報告されていません。
■目的
・スピントラップ法によって高分子材料の劣化反応の初期過程を明らかにするとともに、その有用性を検証し、実用的な可能性を探ります。
■内容
・高分子の熱劣化にともなって生成したラジカル種は、スピントラップ剤(MNP)によってトラップされ、比較的安定なラジカル種(スピンアダクト)に変換され、ラジカル分子の分子構造や、それ自身の分子運動の速さによって異なる固有のESRスペクトルを示します(図2)。
・ポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリオキシメチレン(POM)に、スピントラップ剤(MNP)を添加した試料を調製し、電子スピン共鳴(ESR)測定装置を用いて、サンプルを加熱しながらESRスペクトルを測定した例を図3に示します。
・ESRスペクトルを詳細にコンピュータ処理することで、スピンアダクトの分子構造を推測するとともに、各ラジカル濃度の経時変化を算出することができ、定性的かつ定量的な解析を行えます。
・解析結果をもとにPBTの熱劣化反応を考察することができました(図4)。
・主鎖の-CH?-からH脱離が起きて-CH-が生じます。
・-CH-はすぐにMNPにスピントラップされ、異方性を示すAI成分が観測されました(アニーリング初期)。
・近傍のMNPが消費されると、次の主鎖β切断反応が優先的に起きて、アルデヒドとベンゾイルラジカルが生じます。
・遠方のMNPによって鎖末端スピンアダクトが生じ、分子運動が比較的自由なため、hfcc≒0.8mTの等方的なN成分が観測されました(アニーリング中期)。
■応用
・高分子材料の、熱的・光的・機械的な劣化の反応経路、材料としての寿命予測、曝されていた環境の履歴などを知ることができます。
■将来展望
・さまざまな材料に:高分子材料だけでなく、食品や生体組織なども対象に。
・より簡便に:スピントラップ剤入りの溶液を材料表面に塗布・乾燥するだけで、測定の準備が済ませられるように。
・より簡素な測定装置で:現在の数分の一の大きさ、卓上で測れる専用ESR装置が数百万円で購入できるように。