▼詳細
■研究の概要
■背景
・自然環境との共存を目指して、自然環境に影響の少ない小さな分子にまで自然分解させることのできる『生分解性プラスチック(グリーンプラ)』が開発されています。
・『光による分解』もまた、自然の力を生かした処理法として有用と考えられます。
・生分解性と光分解性も併せ持つことによって、相乗効果による分解性の向上、分解速度のコントロール、分解範囲の限定といったそれぞれの目的に合わせた分解制御が可能となります。
■目的
・本研究は、生分解性高分子に光増感剤を加えた系に対して、光を照射したのちに生分解試験を行うことで、生分解性に対する光照射の効果を明らかにし、より効率の良い生分解プラスチックを開発することを目的とします。
■内容
・一般に脂肪族飽和ポリエステルは、高い生分解特性を示しますが(図1の①)、可視光や紫外線を吸収する官能基を持たないため、光分解を起こしにくいです(同②)。しかし、ある種の光増感剤を加えると、増感剤が光を吸収して光イオン化することで(同③)、放出された電子が媒体のポリエステルに捕捉されてエステルラジカルアニオンが生じ(同④)、続いて主鎖が分解することでポリマー主鎖の切断反応が起こります(同⑤)。
・優れた生分解性を示す脂肪族系直鎖状ポリエステルであるPBS/PBTオリゴマーやポリ乳酸を対象に(図2)、それぞれ光増感剤TMPDを添加して生分解試験を行ったところ、事前に光増感剤を加えて光照射することで、いずれも生分解性が格段に向上しました(図3(a)および(b))。
・光反応で生じるラジカル中間体を電子スピン共鳴法(ESR)を用いて調べたところ、光増感剤の光イオン化によって放出された電子が(図4③)、電子親和性に富むエステル部位に捕捉されてエステルラジカルアニオンを生じ(同④)、これを開始剤として主鎖切断反応が起き(同⑤)、分子量が低下したり(同⑥)、時にはマクロモノマーとなって他の分子と結合して分子量の増加を示すことがわかりました(同⑦)。
・生分解性が光照射によって向上したのは、光分解によってあらかじめ主鎖の分解が進んでいたため、酵素による分解が速くなったと考えられました。
■応用
・コンポスト化に対する補助力:生分解速度の遅いポリマーの分解速度を、光照射によって促進させます。
・溶媒に不溶なネットワークポリエステルを分解して、可溶化させます。
■将来展望
・生分解速度の制御:うまく光照射を行って、材料の一部分だけを速く分解させることで、「特定の構造を保ちながら分解しつつも、最後には全体が崩れる」など、コントロールされた分解様式を設計することが可能。
・ポリマーの側鎖へ光増感官能基を結合させ、光・生分解の両機能性を持つ単体の材料を作ります。
・より効率よく電子放出を行う光増感物質の探求。
・酸化チタンTiO?など、環境に負荷の低い光触媒を応用。