▼詳細
■研究の概要
現在多く用いられているヘアカラーリング用の酸化染毛剤には人体への影響・環境への負荷・合成化学原料の持続性などに関する課題があります。すなわち、酸化染毛剤では、薬剤や染色中に発生する発がん性の副成物などによって疾病が引き起こされる場合があり、また、染色中に刺激性の揮発成分が放出され、染色廃液がそのまま下水に排出されています。本研究室では、このような課題の解決を目指して、アミノ酸と糖を染料前駆体として用いた染毛法の研究を行なっています。そして、この染毛法によって白色人毛が茶褐色に染色されることを見出しましたが、当初は染色温度が70℃という高温で、染色時間が4hという長時間でありました。そこで、この方法における染色条件の低温・短時間化を実現するために様々な試みを行なってきた結果、まず、クエン酸をはじめとするリンゴ酸骨格をもつ有機酸の添加によって、染色温度が下がり、染色時間が短縮されることがわかりました。さらに、糖の開環・アルデヒド化に着目し、これを進行させるための酸化剤の染色溶液への添加を検討した結果、D-キシロース+β-アラニン+クエン酸+NaIO₄系で毛髪を処理すると、48.5℃、75minで褐色に染色できることが明らかになりました。本研究で開発された方法は、人体や環境への負荷を低減し、原料獲得が持続的な染毛法や他の繊維材料の染色法として実現できる可能性をもっています。アミノ酸としてはグリシン・β-アラニン・バリン・セリン・アルギニンなどが利用でき、糖としてはD-キシロース・D-リボース・D-フルクトース・D-ガラクトース・D-グルコースなどの単糖の他、二糖・オリゴ糖・多糖が利用できます。また、酸としてはクエン酸・リンゴ酸・酒石酸・乳酸などが利用できます。そして、染色条件によって、黄~橙~茶~濃褐色の色調に毛髪を染色できます。