▼詳細
■研究の概要
自然界には数多くの食植生昆虫が存在します。それらは、私たちの生活圏に侵入すると、例えば農作物や園芸植物に直接の食害をもたらし、時に健康被害をもたらします。直接の害は無くても、不快さを与える原因になります。その要因を取り除くため、ヒトはこれまでに数多の化学農薬を開発し、それを使用することで、いわゆる「害虫」を駆除してきました。しかし、それらの化学農薬の多用が、結果として駆除対象である「害虫」に薬剤抵抗性の発達を促してしまいました。抵抗性害虫の駆除にはより薬効の強い成分開発が必要です。薬効が強まれば、ヒトへの健康被害も懸念され、自然環境に対する負荷も増大します。
ライフサイクルが短く薬剤抵抗性が発達しやすいハダニ類は、このシナリオをたどる典型例で、化学農薬による防除が難しい重要農業害虫です。ハダニによる実害を効果的に抑えつつ、薬剤開発の無限ループから脱けだすには、発想を転換する必要があります。
私たちが着目したのは、「食植生昆虫は数多存在しているにもかかわらず緑の植物が食い尽くされないのはなぜか」という点です。一つは、植物自身による物理的・化学的な自衛力、すなわち様々な摂食阻害効果によるものでしょう。それに加えて、食物連鎖を牛耳る捕食者の効果が挙げられます。アリ類は、多種の食植生昆虫に対し高い捕食圧を及ぼす絶対的な捕食者に挙げることができます。世界で1万種、日本では350種以上の種の多様性を示し、組織的に捕食を行う生物だからです。