■研究の概要
・背景
植物を宿主として、抗体医薬品・ワクチン等の組換えタンパク質医薬品を一過的に遺伝子導入し生産しようとする試みがあります。動物・昆虫細胞を宿主とする方法にくらべ栽培コストが圧倒的に低く、動物細胞に類似の翻訳後タンパク質修飾が期待でき、病原性ウィルスの混入リスクは事実上ゼロである点が魅力です。例えば、メディカゴ社(カナダ。田辺三菱製薬株式会社の子会社)によるコロナワクチン製造の取り組みは日本国内でもたびたび報道されました。
目的遺伝子を宿主植物に一過的に導入するには、アグロバクテリウムを使用します(アグロインフィルトレーション法)。通常の遺伝子組換え植物と異なり、1世代で遺伝子導入とタンパク質生産を完結します。そのずば抜けて高い組換えタンパク質生産能力により、ベンサミアナタバコが唯一の利用可能な宿主植物と理解されていますが、播種から遺伝子導入可能になるまでに5週間もの栽培期間を要する点がベンサミアナタバコの欠点です。この長期栽培のコストが医薬品の価格を上げかねません。
・新しい発現系の提案
私たちが構築した、カイワレ大根のスプラウトを宿主とする発現系はこの欠点を解決しています。すなわち、種子の吸水からわずか8日で遺伝子導入と収穫を完了できます。本法では、市販のカイワレ大根の種子が利用でき、コップ一杯分の栽培面積で4.2mgものEGFPタンパク質を生産できます。家庭用の蛍光灯以外に、植物特有の特別な装置は必要ありません。